カップヌードルが狙う"アオハル"のターゲット
BUMP OF CHICKEN×カップヌードル、魔女宅キキの青春を新曲で彩る https://t.co/W90479zDo0 pic.twitter.com/DRxw17D7FW
— 音楽ナタリー (@natalie_mu) 2017年6月19日
「あの魔女の宅急便のキキが17歳設定」「テーマ曲はBUMP OF CHICKEN」というコラボもあいまって大きな話題になってますね。
このCM、「青春(アオハル)」というテーマだし、思春期の恋愛ストーリーだし舞台は学校だし、アニメーションは『君の名は』をなんとなく彷彿とさせていて、"ティーンズの世界観"を表現したCM映像であることは間違いないのですが、
「じゃあこれは10代ターゲットの映像なの?」
というと違うんじゃないか、という意見が散見されてます。
【動画あり】日清カップヌードル、CMで本気を出す - おいしいお https://t.co/gkMaeVPLjQ 懐かしい感じの絵柄だなぁと思ったらツルモクの作者なのか。声はめぐ姉だし、ターゲットは30代以上なんじゃね?— ろっく (@rockside_ex) 2017年6月10日
そもそも「魔女の宅急便」に共感するのは10代じゃない
まず、このCMは"「魔女の宅急便」のキキとトンボが17歳"という設定がとてもインパクトがあります。
今回は原作の角野栄子氏の「魔女の宅急便」を元にしたとありますが・・・まあ、当然多くの人が想起するのはジブリの映画のほうでしょう。ジブリの「魔女の宅急便」は公開1989年。これを青春時代に見ていたリアルタイム世代は30~40代です。
そして今の現役高校生からすればもはや生まれる10年前の作品です。言わずもがな、「魔女の宅急便=青春」は40歳前後のものであり、ネットをみてみれば「ジブリ作品とイメージと違う」といった議論も、その世代で行われている気がしますね・・・。
キャストなども全然10代向けじゃない
そして、今回のイラストは90年代に代表作を持つ漫画家・窪之内 英策先生。そして予告編のナレーターはエヴァ綾波レイの林原めぐみさん。これもどう考えても30代以降に刺さるキャスティングです。
そして、きわめつけはテーマを歌う"BUMP OF CHICKEN"。彼らのデビューは2002年でRADWIMPSよりもさらに一つ上の世代です(RADは2005デビュー)。
というか、BUMPの曲は完全に僕(32歳)世代の青春ソングです。
たしかに若い世代にもファンがいて、幅広くリーチするバンドというイメージですが、本当に10代メインだったら"米津玄師"、"ぼくのりりっくのぼうよみ"あたりを選ぶのではないかなーという感じです(おそらく企画会議では絶対名前あがっていると思う) 。
じゃあ、なぜそこであえてBUMPであり林原めぐみであり、窪之内 英策であり、魔女の宅急便なのか?
これは
・30~40代層をターゲットにしつつも
・ブランドメッセージとしては若々しさ、新鮮さを届ける
という狙いなのでしょう。
夢を見せるブランディング
すなわち、今回は「ターゲット層(30~40代)のライフスタイルに合わせるのではなく、彼らに”青春”を想起させながら「若々しさ」というブランドメッセージで販売戦略を考えていく」という戦略だと思うのです。
そして、僕はこれはとてもかっこいいなぁと思っています。
客層にこびておっさんくさいCM流してもヌードルが昭和の産物になっちゃうだけですから。
「クリエイティブでは若々しさを演出しながらも、でも実は狙っているのはミドル層ですよ」という戦略の妙。
カップヌードルのさすが感あるなーと思うやつでした。
正露丸が音楽レーベルで仕掛けるブランドマーケティング
「正露丸」の大幸薬品製薬会社が、"世界初の製薬会社による音楽レーベル"として「SEIROGAN UTILITY RECORDS」を設立されてました。
以前から、企業がマーケティングとして音楽レーベルとかもってアーティストが作品を発表というスタイルがあれば素晴らしいな、と本気で思い続けていたので、「まさにこれじゃん!」という感じで素晴らしかったです。
正露丸が狙うブランドリフト
正露丸といえばお腹の調子が悪い時の薬の代表格。「昔ながらのよく効く薬」というブランドの反面、若者や女性にとっては身近ではないイメージが課題になっているであろうことは想像に堅くないです。
実際にSNSやネットメディアを活用したプロモーションを積極的におこなっているみたいですね。
で、おそらくそんな戦略のでの一貫での「音楽レーベル」。
正直、フックアップされているアーティストは決してマス訴求に強いというわけではないと思うんですが、
ユースカルチャーとか好きな人ならわかるラインナップで、これはこれまでの正露丸のブランドイメージの中に無かった「クリエイティブ性」や「イマっぽさ、トレンド感」を伝えようとしている、ということなのだと思います。
カルチャーに寄り添う「レーベル」という見せ方
しかも、このラインナップは「共通のシーンにいるアーティストたち」です。
それらを「レーベル」というプロジェクトで括ることで、「単体のアーティストパワーに頼って話題を起こす」のではなくて「シーンの盛り上がりで一緒に話題を起こそう」という狙いがあるのだと思います。
既存の曲をCMタイアップとかじゃなくて、楽曲もオリジナルコンテンツとして作られているのも良かったです。
「正露丸~正露丸~」みたいな歌詞で制約や条件を感じるものではなく「ラッパの音使って遊びながら曲作ってみてくださいよ」という感じ。
なので、楽曲はそれぞれアーティストの個性と自由度を感じるものだし(どれもかっこよいです)、コマーシャル用として簡潔してしまうのではなくて、フリーダウンロードもできてユーザーも「作品」として楽しむことができると。
(CM曲ですごくかっこよくても、結局作品として手元にもてないようなものは過去よくあった・・・)
企業がイヤミのない見せ方でブランド・信頼感を高めつつ、
カルチャー側も一方的に消費されるのではなく、新しい可能性を開きながら発展できるのってとても素晴らしいなぁと思います。
正露丸の製薬会社が音楽レーベルを開始 やけのはら、EVISBEATSらが参画 https://t.co/u4JhpvWES2 @kai_you_edさんから
— ぼくのりりっくのぼうよみ (@sigaisen2) 2017年5月16日
正露丸レーベルやばい こんなかんじでいろんな企業とかブランドが音楽レーベル始めたらおもしろそう 文化ごと成長
実際、フリースタイルってどんだけ流行ってるんだろうという話
流行ってますよね。フリースタイル。僕も大好きです。
テレ朝で、「フリースタイルダンジョン」が放送始まったのが2015年の9月。これをきっかけに、特に今年からラップ系のプロモーションキャンペーンもめっちゃ見るようになりました。
新宿駅前に最前線のラッパー達を集めた、先日の参院選での18歳選挙権の周知キャンペーンイベント「TOHYO CYPHER」は東京都主催ということで、自治体レベルでさえ「ラップは若者にウケてるアツいカルチャーなんだ」という認識なのだと思います。
おそらく、今フリースタイルラップのブームがやってきたこと、「流行りモノ化」していることは、音楽が好きな人ではなくとも、なんとなく実感できるんじゃないかな~と思います。
フリースタイルの人気を定量化してみる
で、実際、Googleの検索ボリュームを比較すると2016年の2月あたりから「フリースタイルダンジョン」が天下の「ミュージックステーション」を上回りはじめています。ネットで強い興味関心を集めていることがわかりますね。
・・・ただ、やはりこのジャンルはサブカルチャー
上の図ではGoogleの検索ボリュームから「どれだけ検索されているか」を可視化していますが、
SNSでの話題数では、やはりAKB・三代目JSBといったマスコンテンツには届いていないようです。
ただ、それでも東京都をはじめ、様々な企業のプロモーションにフリースタイルラップが活用されているのは、ただブームとして盛り上がっているというだけではなく、
企業がコンテンツとコラボレーションする際に、効果を発揮しやすい要素がこのフリースタイルラップにあるからと考えています。
企業が"シーン"とコラボレーションするメリット
まず一つは、コンテンツの核となる「楽曲=ラップ」が非常に柔軟に可変できるため、企業や商品の文脈をわかりやすく反映しやすいということ。
そしてもう一つは「特定のアーティストによるブームではない」ということです。
こうしたジャンルのファンは”ある特定のアーティスト”というよりも、ジャンルに関わる複数のアーティスト達をチェックしています。そのため、「TOHYO CYPHER」や、LINEバイトのように複数のアーティストを巻きこみ"シーン"とコラボレーションすることが、共感につながります。
こうして生まれた共感は「好きなアーティストのタイアップを通じて知った」というよりも「"シーン"を一緒に応援する理解者」として受け止められやすいのではないでしょうか。
人気コンテンツにぶら下がった一時的な関係性ではなく、「企業⇔ファン」という理想的な関係性に近いと思います。
ちなみに、ポップカルチャーマーケティングでは、カルピス「ゲンエキインタビュー」でLiSAさん、内田真礼さん、諏訪部順一さんといったアニメ文脈の"シーン"最前線の方々とコラボレーションすることで、カルピスの新しいファン開拓を行いました。
そんな感じで、"シーン"との良いコラボレーションが、企業・アーティスト・ファンにとって有意義で、もっと面白い世の中につながっていければなぁと思っている次第でした。